REPORTvol.7

【シリーズ・カキワゴン②】坂町「長船養殖場」で、男女10人牡蠣物語、の巻

【シリーズ・カキワゴン②】坂町「長船養殖場」で、男女10人牡蠣物語、の巻

やっぱり、広島は牡蠣を食べる街であってほしい。これからもその思いを持って続けていきます (牡蠣生産者・長船幹成)

広島に「顔の見える牡蠣」「美味しい広島県産牡蠣」が食べられる飲食店を増やすこと、飲食店の皆様に広島県産牡蠣の魅力や生産者様ごとの特長を知っていただくことを目的に2022年11月に開催された、牡蠣食う研プロデュースの「カキワゴン!」ツアー。全3日程のうち、今回はday2のもようをお届けいたします。

(取材・文/牡蠣食う研)

海に向かうは出会いを求める
「男女10人牡蠣物語」

牡蠣食う研でございます。広島の飲食店の皆様とともに、牡蠣を愛する生産者様を訪ね歩く「カキワゴン!」ツアー。前回の大成功に続いて、11月某日、2回目の実施となりました。この日は最高気温が20度を超える温かさ。参加者一同の牡蠣への情熱が、瀬戸内海の海水温を高めたからだと信じております。

午前9時 坂町「長船養殖場」にやってきた「カキワゴン」

さまざまな技術と徹底した管理体制で、坂町で水揚げした牡蠣を全国各地に送り出している「長船養殖場」様。こちらで行われている“知られざる品質管理の工程”を見学させていただくことになっております。参加者を待ち受ける建物の様子は、まるで挑戦者を待つ「SASUKE」ファイナルステージでございます。

往年の名番組『あいのり』のテーマ曲(世代により異なる)に乗せて、「カキワゴン」がやってまいりました。この中に出会いを求める男女10人が乗り込んでいるのでございます。求めているのは「美味なる牡蠣との出会い」。

そう、牡蠣と人とのマッチングでございます。

牡蠣食う研

「本日、皆様をアテンドしていただく、『長船養殖場』の長船幹成様でございます」

長船様

「今日は生産者と飲食店が繋がるという、我々にとってもいい機会です。実際に海上で水揚げを見てもらって、そのあとの工程も見学してください。この一日で、牡蠣の良さをみんなが知ってくれればうれしく思います」

長船様は日ごろの業務のなかでは、なかなか飲食店様と直接交流する機会はないとのこと。我々牡蠣食う研としましても、水揚げで忙しい11月に見学をさせていただくことはご負担ではないかと案じていたのですが、そういった理由からも今回の試みを快諾してくださいました。

この時点でツアーの大成功を確信した私は、もう帰って大丈夫なのではないかと思ったのでありますが、さすがに後ろ髪と貝柱を引かれ、残ることにしたのでございます。

広島県内から集まった4店舗10名の参加者

安原研究員

「イタリアンレストランで白いカキフライなどを出していますが、昨年は良質な牡蠣がなかなか安定して仕入れられず困っていました。今日の見学をきっかけに良い牡蠣に出会えたらいいなと思っています」

原田様

「2021年4月にオープンしましたが、まだ広島産の牡蠣を使っていないんです(2022年11月現在)。どこから仕入れようかと思っていたところ、この話をいただいたので参加しました。これから観光客様が増えていくと思うので、広島県産牡蠣で県外にアピールしたいです」

橋本様

「前職がホテルだったので、牡蠣はデリケートなので食材として触れたことがないんです。実は恥ずかしながら、2年前に牡蠣を初めて食べました。でも今はめっちゃ好きで、飲食店で見つけたらほぼ注文しています。私自身はソムリエでして、店で出す料理はシェフと共同開発しています。今日は、自分の店で提供することを前提に見学させていただきます」

田中様

「三原では牡蠣を出しているお店が少ないのですが、『むすび』でも他県の方から牡蠣を求められる事が多々あります。このツアーで牡蠣について勉強したいです。ちなみに今日は僕の誕生日ですので、忘れられない日にしたいです!」

牡蠣食う研

「皆様が非常に前向きにご参加いただいたことを大変うれしく思います。さて、さっそくツアーをスタートしたいと思いますが、まずは何から見ていくのがよいのでしょうか?」

長船様

「まずは船に乗ってもらって牡蠣筏を見てもらおうと思います。ちょうど今、水揚げをしていますから。間近で見てもらうのが一番いいでしょう」

いざゆかん!美味を育む
恵みの海へ…

人類は長い歴史の中で海を越え大陸を渡り、進化してまいりました。船に乗ると否が応でもテンションが上がるのは、太古のDNAがそうさせているのかもしれません。今回の参加メンバーの皆様もやはり船に乗ることで、日常から解き放たれているようでございます。飲食店の厨房で見る牡蠣の故郷である“母なる海”。料理人にしてみれば聖地巡礼のような気持ちになることでしょう。

洋上に浮かぶ、牡蠣筏という名の桃源郷

坂町を出港して瀬戸内海をクルージングすること約20分。一行は、五日市の津久根島が見える海域へとたどり着きました。ここはいわゆる太田川の河口域。広島の山々から栄養たっぷりの水が流れ込む場所で、美味しい牡蠣をぷっくら育てるには格好の場所なのです。

参加メンバーの乗った船は牡蠣筏に横付けして停まり、その向こうにはもう一艘の大きなクレーンを搭載した船が作業中。目の前で吊り上げられるワイヤーには数々の牡蠣が鈴なりに!

「おおおぉぉ~~~っ!」(参加者のどよめき)

安原(麻)様

「初めて見ました!テレビでは見たことありましたけど、こんなに近くで見られるなんて感激です。店では一つ一つの個体でしか認識したことがなかったので、こうやって育てたものを使わせてもらっているんだなと改めて実感しますね」

牡蠣食う研

「皆様、せっかくですから長船様にいろいろ質問してくださいね!」

参加者から矢継ぎ早に、長船様への質問が…

安原研究員

「この牡蠣は何年モノで、ここの水深はどのくらいですか?」

長船様

「3年育てたものです。ここの水深が12~13メートル、ワイヤーの長さが大体9メートルですね。ひとつのワイヤーに牡蠣が800~1000個くらいですかね。ムラがありますから、500個くらいのときもあります」

田中様

「このあたりの筏で何個くらいの牡蠣がとれるんですか?」

長船様

「数えたことがないけど、ここに連なる筏で80万個か、多ければ100万個くらいですかね」

“美味と栄養の宝石”は陸上でさらに磨かれる

長船様

「牡蠣を持って帰ってからは、泥を落として洗浄し、牡蠣打ちをしやすい形に整えて、水槽に入れて浄化をします。ここからは、水揚げした牡蠣をどんな風に品質管理しているか、見学してもらいたいと思います」

「長船養殖場」様では、徹底した洗浄と殺菌を追求し、岩盤の下80メートルからくみ上げる透き通った地下水を紫外線殺菌して溜めたプールで、48時間もかけ流しで浄化を行います。その工程を取材した記事はコチラからご覧ください。

海中で牡蠣を育てる大自然
陸上で牡蠣を磨くは人間達

牡蠣筏見学から戻った一行は、同じく陸上へと運ばれてきた牡蠣の行方を見守るのでございます。

長船様

「水揚げした牡蠣は、まず牡蠣用洗浄機で泥や付着物などの汚れを取り除きます。殻に付いているフジツボや付着物を専用のクリーナーで一つ一つ丁寧に取り除くんです。これは必ず人間の目で、手作業でやらないといけないことです」

原田様

「こんなに丁寧に手間をかけて殻の外側もきれいにしているんですね!」

地下海水で100%に限りなく近い浄化を目指す

長船様

「外側をきれいにした後は、内側の浄化です。無菌状態の地下水を大量に牡蠣に飲ませることで、内臓をきれいにします。浄化槽の海水はかけ流しになっているので、常に殺菌された綺麗な海水が満ちている状態です」

人間もどんなに着飾ることはできても、内面を磨くのには時間がかかるものでございます。牡蠣とて同じこと。見えないからといって手を抜くようなことがあってはいけないのです。内面こそが、その人の本質。安心・安全な牡蠣を常に送り出すためには、内側の浄化こそが最も大切だと言えるでしょう。

これぞ「牡蠣物語」!加工の流れを一連で見られる

私、これまでも牡蠣業者様の取材をして参りましたが、「長船養殖場」様の加工ラインは非常に見学しやすい造りになっており感激いたしました。加工場の外周を取り巻くように廊下があり、ガラス越しに作業風景が見られるのです。これも、生産過程をできるだけオープンにすることで、牡蠣の安全性を実感してほしい思いと、そして自信の表れではないでしょうか。

橋本様

牡蠣の水揚げからの動きが、ポイントではなく一貫したストーリーとして見られるのがスゴイと思います。僕らが心配する必要がないくらい清浄している、これぞプライドと心意気ですよね。安心しました。あとは、その思いを受け止めてどんな風な料理を考え、提供するか。そこに責任を感じてしまいますね」

素材の味だけでここまで!?
料理人が舌を巻く蒸し牡蠣

一通りの見学を終えた一行に、長船様からのふるまい牡蠣。大きな鍋に殻付き牡蠣をたっぷり入れたら、蓋をしてガスコンロで一気に加熱。参加者全員がとり囲むなか…。

蓋をパカっと開けると!

湯気の中から現れたのは…

こちらの蒸し牡蠣、牡蠣を加熱しただけのシンプルなものにもかかわらず、一同目を丸くするほどのうまみ。参加者の皆様も驚きを隠せないご様子です。

橋本様

「実は今日、牡蠣でどんな料理を作るか、シェフとシミュレーションして来たんです。でも、この蒸し牡蠣をいただいて考えが変わりました。ここまで素材が美味しいんだったら、ソースなどでゴチャゴチャと作り込むのではなく、シンプルでいいんじゃないかと。本当に美味しくて驚いています」

牡蠣の身がきれいなことにも感激

安原研究員

「僕の前職は、牡蠣生産者直営のレストランでしたから、数々の牡蠣を見てきました。そんな僕でも、『長船養殖場』の牡蠣はきれいだなと感じます。色もクリーム色ですし、身も詰まっている。見ただけで美味しそうだなと思える牡蠣ですね」

小笠原様

「熱することで牡蠣からあふれ出てきたダシが、そのままソースみたいになって!鍋に残っている汁も全部飲みたいくらい美味しいです」

牡蠣の水揚げから浄化の工程を見学したあとで、答え合わせのように試食させていただいて生まれた感動。それは「ただ美味しい」ではなく、「美味しいの理由に基づいた感激」なのでございましょう。

この牡蠣をどんな料理に?
答えを探す新たな旅へ…

ツアー終了後、参加者から続々と「牡蠣を買って帰りたい」との申し出が。今回の知識を吸収して店の厨房に持ち込む“自分自身へのワクワクする宿題”なのかもしれません。

田中様

「今日、自分が見たストーリーをしっかり三原に持ち帰って、お客様に伝えたいです。どれだけ大変な思いをして生産者さんが牡蠣を育てて出荷しているか。僕もその気持ちを引き継いで料理にしたいと思っています!」

橋本様

「とても貴重な経験でした。ぜひ今後、長船さんの牡蠣を店で使いたいと思っています。信頼できる生産者さんを紹介してもらって感謝の気持ちです」

神原様

「料理人として少しでも牡蠣の美味しさを伝えられるようにお客さんに提供しなきゃいけないので気合が入りますね!」

橋本様

「美味しいワインを合わせて提案したいですね!」

広島を今よりもっと牡蠣を食べる街に!

長船様

「牡蠣は当たるもの、という偏見をなくしたいと思って、徹底的な浄化の実現に取り組んできました。ここまで本気で取り組んでいる業者はそうそうないという自負があるので、皆さんに見ていただけて本当に嬉しいです。私はやっぱり、広島は牡蠣を食べる街であってほしい。これからもその思いを持って続けていきます」

いかがでしたでしょうか?「カキワゴン!」ツアーday2レポート。ツアー当日に「長船養殖場」様の牡蠣の導入を決定された『古民家カフェ&宿 むすび』『Calma』様に続き、後日、『Lucio』『宮島鮨まいもん』様でも取引が始まったとのことで、まさかのマッチング率100%という結果に。キューピッドが人と人をつなぐ矢をピュッピュッと放つように、オイスターがピュッピュッと飛ばすエキスが人と人をつなぐこともある。そんなファンタジーに潮が満ちた「男女10人牡蠣物語」を感じられた1日でございました。

撮影:中野一行

※本記事では出演者の健康確認をした上で、撮影のため一時的にマスクを外しています。

今回の牡蠣食う研究

美味しく食べる。それだけじゃ嫌ッ…!牡蠣の魅力を五感で感じる新商品を作りたい

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担当研究メンバー

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