REPORTvol.8

【シリーズ・カキワゴン③】廿日市市「地御前漁協」で4生産者一気見ツアーの巻

【シリーズ・カキワゴン③】廿日市市「地御前漁協」で4生産者一気見ツアーの巻

広島に牡蠣LOVERをもっと増やしたいなと改めて思いました!牡蠣は県外の人が『あ~、また広島行こ!』ってなる食材のひとつですから (料理人・岡田裕介)

広島に「顔の見える牡蠣」「美味しい広島県産牡蠣」が食べられる飲食店を増やすこと、飲食店の皆様に広島県産牡蠣の魅力や生産者様ごとの特長を知っていただくことを目的に開催してまいりました、牡蠣食う研プロデュースの「カキワゴン!」ツアー。最終日となるday3のもようをお届けいたします。

(取材・文/牡蠣食う研)

朝の地御前に集うは
飲食店の皆様と…大学生!?

牡蠣食う研でございます。広島の飲食店の皆様とともに、牡蠣を愛する生産者様を訪ね歩く「カキワゴン!」ツアー。いよいよ最終日となりました。これまで大竹市「丸健水産」様、坂町「長船養殖場」様をめぐって参りましたが、今回は趣向を変えて、漁協様単位での訪問でございます。ということで…。

本日の目的地「地御前漁協」にいきなり集合

牡蠣食う研

「皆様お集まりいただきありがとうございます! このメンバーで地御前漁協様にお邪魔したいと思います!」

バラエティ豊かな6名の参加者

このほか、お写真には写っていませんが、マサキマサユキ様のご息女・御年10カ月のBaby-M様(仮)も同行しておられました。

Baby-M様(仮)

「ばぶぅ(よろしくお願いいたします)」

生後10カ月で牡蠣の生産現場を見学するとは、将来立派な牡蠣食う研メンバーになりそうな予感がいたします。ところで…。

牡蠣食う研

「むむむむむ、赤ちゃんだけかと思いきや、もうおひとり不思議なプロフィールの方が。『大学生の植村様』とありますが、今回は飲食店様限定イベントの予定でして…。な、なぜご参加に?」

植村様

「はじめまして! 広島市立大学芸術学部デザイン工芸学科4年の植村百葉と申します。実は私、卒業制作で牡蠣をテーマにした作品を考えていまして」

牡蠣食う研

「芸術学部で牡蠣をテーマにって、牡蠣筏の粘土細工…とか…ですかね…??(発想の限界)」

植村様

「いえ、牡蠣筏で使う、プラスチック製のパイプがありますよね? あれを作品の材料にしたいんです。そのためにまず広島の牡蠣養殖について知ろうと思って」

「パイプ」とは、こちらの部品のこと

牡蠣を筏につるす際に、牡蠣と牡蠣の間を程よく開けるためにロープに通す、通称牡蠣パイプでございます。水揚げの時などに筏から離れ、海岸に流れ着くことがあるこのパイプを、アートとして再生したいというのが植村様の思い。まずは生産者の皆様が牡蠣や牡蠣パイプをどのように扱っておられるのかを知りたいと、「カキワゴン!」への参加を志願されたのでございます。

牡蠣食う研

「なるほど~、青雲の志、素晴らしき! 飲食店ではありませんが、せっかくですからご一緒致しましょう! それでは『カキワゴン!』day3・地御前漁協編、始まり始まり~」

1軒目「ヤマキタ水産」様で
水揚げ後の流れを知る

というわけでまずは1軒目。地御前漁協西側の一角に位置する「ヤマキタ水産」様へ伺いました。2021年に建屋をこちらのエリアに移転したそうで、入口部分のロゴなども非常にお洒落! カフェと見まごうほどでございます。

北山様

「うちの牡蠣は、だいたい今の時期(11月中旬)くらいから出荷が始まります。今しているのは殻付き牡蠣をむき身にする作業と、あと殻の掃除ですね」

殻の掃除とは、水揚げした牡蠣を一つ一つ洗い、養殖中に牡蠣殻の周りについた汚れやフジツボ、ムール貝などを取り除いて海に戻す作業のことでございます。この作業の後、約1カ月程度を経て、牡蠣が出荷できる状態になるのだとか。

北山様

「フジツボも餌を食べちゃうので、一度綺麗にしてからもう一度海に戻すことで、牡蠣が餌をよく食べることができて身が入ります。雑草を抜くような感じですかね」

こんな感じで掃除をすると…

右の牡蠣が左の牡蠣に!

牡蠣食う研

「こうして綺麗にして、また海に戻し、さらに殻付きで販売するものは出荷前に再度綺麗にするわけですよね…いや大変な労力でございますな!!!!!!」

出荷までの工程をざっくりご案内いただいたあと、地御前漁協様の環境に対する取組についてもお伺いいたしました。実は地御前漁協様は、2021年に牡蠣としては全国初となる「マリン・エコ・ラベル・ジャパン認証(通称MEL認証)」を取得されました。MELは環境に配慮した漁業・養殖業を行う事業者を認証する制度。さらに昔ながらの取組として、地元廿日市の山への植林活動「はつかいち漁民の森づくり」への参加など、海の環境をよくするためのさまざまなチャレンジを続けておられるのです。

北山様

「なかでも、海底の泥質をよくするために耕す『海底耕耘』は先代から50年近く続けている歴史ある取り組みです。ここ何年かは、実験的に海底に牡蠣殻を撒いたりもしています。ただ、海って海面が上下に動くと移動するので、撒いて終わりじゃないんですよね。人間の力で耕すのは限界もあるので、なかなか追いつかないなぁというのが実感です。試行錯誤しながらやっています」

ちなみに養殖時に出る牡蠣殻ですが、このように使用されるほか、細かく砕いて埋立地の材料として使うなど多様な需要があるそうでございます。さてここで、学生参加者の植村様から質問が出ました。

植村様

「牡蠣パイプの再利用についてもお聞きしたいです。収穫する時に牡蠣筏から落ちてばらばらになると思いますが、どのくらい回収できるものなんでしょうか?」

北山様

「できるだけ細かく取っていくようにはしています。プラごみの流出問題は私たちが特に気にしているところでもあり、100%の回収を目指しています」

北山様

「実はパイプを使わない『ロープ養殖』という手法も試したことがありますが、牡蠣の出来に影響するのと、手間がかかることもあり、なかなか大変でした」

プラスチック製のパイプは耐用年数が3~4年。回収の徹底、できる限り再利用するなど、海への流出を最小限にとどめるため、各生産者の方々が工夫をして使っておられます。

2軒目「北野水産」様で
むき身の作業を見学

続いて2軒目。「ヤマキタ水産」様のすぐお隣「北野水産」様へやって参りました。

「いらっしゃいませ!」

牡蠣食う研

「なんと28歳!でいらっしゃるのですね。お若い~、爽やか~!」

北野様

「ちょうど牡蠣打ちをしているところなので、ぜひ見ていってください」

加工場内に入ると、テレビなどでも見る機会の多い、牡蠣打ちの風景が広がっておりました。「北野水産」様では、大体1日に200~500Kg程度の牡蠣をむき身にしておられます。

北野様

「むき身にした牡蠣は、別な部屋でしっかり洗っていきます。誰か、ちょっと水を触ってみませんか?」

岡田様

「冷たっ! こんなに冷たいんですね」

北野様

「そうでしょう。3℃をキープした冷海水で洗うので身が引き締まるんですよ。今打っている牡蠣が、去年の10~11月に仕込んだ『1年もの』と言われる牡蠣です。うちでは、できるだけ若い牡蠣を出荷するようにしています。若い牡蠣はサイズが小さめですが、産卵をする回数が少ないので、身に甘みがあって美味しいんです」

せっかくなので何か体験してみたい! と、先ほどの「ヤマキタ水産」様でも見学させていただいた、牡蠣殻の表面についたフジツボを取る作業にチャレンジすることになりました。

岡田様レッツ・トライ

北野様

「時期にもよりますが、だいたい1日3000個くらいこの作業をやってます」

3000個…!!!!!!!を毎日。おそろしい仕事ぶりでございます。ちなみにこの作業の際、牡蠣の殻の形を見て選別も行うそうです。牡蠣殻のカップが深いものが良く、小さすぎるものや平らすぎるものはより分けてまいります。

3軒目「世良水産」様で
牡蠣加工品をチェック

北野様に見送られ、やってきました3軒目。生産者様同士が隣り合っているため、移動は秒でございます。さて、今回訪れた「世良水産」様、とある特色がございまして。

世良様

「おはようございます! よかったらまず、うちで作っている加工品を紹介させてください」

それがこちら

創業70年の「世良水産」様、ここ15年ほどは、牡蠣を使ったお土産物開発にも注力しておられます。加工品に使用するのは3~5月頃の、しっかりと身が入った春牡蠣でございます。

牡蠣食う研

「すごい!牡蠣大きい!美味しそう!この商品、全部御社で手掛けておられるのですか?」

世良様

「そうなんですよ。こういうの考えるのが好きで…。『牡蠣に檸檬』のレモンはもちろん広島県産で、レモン農家さんまで自分で見学にも行きました(笑)」

めちゃくちゃ力入ってます…!

当然のことながら、使用されている牡蠣はすべて「世良水産」様のもの。実物を見るとお判りいただけますが、かなり身が大きいです。しかし大量生産ではないこともあり、この加工品を販売している実店舗は宮島口フェリー乗り場のお土産売り場「はつこいマーケット」などごく一部。広島市内でもぜひ販売していただきたいな~とか思っておりますと…。

マサキ様

「牡蠣加工品めっちゃ興味あります!あとで詳しく話聞かせてください!」

と申し出たのが、24時間営業の無人販売店『きみと冷食がたべたい』のマサキマサユキ様。マサキ様は本日同伴されている御息女Baby-M様(仮)が地御前生まれということもあり、縁を感じて今回の「カキワゴン!」に参加されました。

マサキ様

「広島県のいい商品で無人販売できるものを探してたんです。常温保存だし、生産者さんが自分で作ってるし、うちの店に置きたいな~! ねえ我が子?」

Baby-M様(仮)

「ばぶぅ(激しく同意)」

「世良水産」様では業務用の冷凍牡蠣も自社で加工しておられるとのことでしたので、実際の製品を見せていただきました。牡蠣は賞味期限の短さが飲食店での提供のネックの一つでもあります。

カチンカチンに凍ったむき身牡蠣

世良様

「業務用冷凍牡蠣はスチームのものが多いと思いますが、うちは炎熱で焼いています」

羽生様

「『餃子家 龍』の羽生と申します。これまでスチームの牡蠣を仕入れることが多かったのですが、スチームと炎熱の違いって、どういったところでしょうか?」

世良様

「スチームと比べると縮みにくいんですよ。食感はやや固めで、丼ものですとか、カキフライ、ピザなんかには使いやすいです」

牡蠣食う研

「いやー勉強になりました。海で牡蠣を育てることはもちろん、収穫後にもたくさんの工程を経て、広島中…いや日本中の皆様の食卓に牡蠣が届いているんですな~」

こうして3軒の訪問を終えた「カキワゴン!」ツアー一行。最後は「地御前漁協」の組合長を務めるBIG BOSSが待つ、「マル清水産」様へと向かいます。

4軒目「マル清水産」で
牡蠣打ち体験&試食

牡蠣食う研

「くんくんくん。くんくんくんくん。くんくんくん。先ほどからずっと気になっておったのですが、界隈に漂うこのかぐわしい香り…これは!?」

「カキワゴン!」一行を迎える調理部隊!

たしかに、3軒の生産者を回って牡蠣の魅力を学び、我々すっかり牡蠣の口でございます。色とりどりの大漁旗がまぶしいこちらこそ、地御前漁協のBIG BOSSこと峠様が率いる「マル清水産」。さて、ご本人は?と覗いてみると…。

「もう3軒回ったん? 牡蠣でも食べていきんさい!」

牡蠣食う研

「BIG BOSS!ご無沙汰しております!(最敬礼)」

「マル清水産」代表で地御前漁協組合長の峠清隆様。昭和40年代から家業の牡蠣生産に携わり始め、6年前に漁協の組合長に就任。50年以上を地御前の海とともに生きてこられた、いわば牡蠣界のリビング・レジェンドのお一人というわけです。そんな峠さま、本日は何をしておられるかというと…。

峠様

「これ?何やっとるかって??こりゃあむき身の大きさを選別しよるんよ。大きい方と小さい方で分けて売るけえね。今日は土産に用意しとるけぇ~持って帰って!」

牡蠣食う研

「峠様自ら大きさを見極めて仕分けされるんですね~(驚)!」

峠様

「ここは他のもんにはやらせんよ。これで信用得てきたんじゃけぇ、誰もかれにもやらせよ~たらダメよね」

牡蠣食う研

「なるほど…素晴らしいですね!」

ちなみに「マル清水産」様では、3年ほど前から、プール海水温、塩分濃度、むき身場の気温、天候、湿度、牡蠣筏の採取本数、獲れたむき身の量などを毎日細かく記録しておられます。峠様ほどのベテランでも、こうした細やかな努力や改善を欠かさない。この手書きの大きな紙を見た瞬間、牡蠣食う研一同、心の貝柱がキュンと致しました…。

峠様

「3軒見て色々聞いて来たんじゃろ?牡蠣打ちは?もうどっかでやったんかいね」

牡蠣食う研

「まだなんです~、ぜひ体験させてください~!」

峠様

「ええよええよ、そう思うてあっちで打つ段取りしとるけぇ~」

そんなわけで、ここからは写真×写真×写真、写真の連打でお届けします。牡蠣打ち体験&試食の模様、駆け足でご覧くださいませ~。

突然始まる牡蠣打ち大会!

峠様

「ぐちゃぐちゃじゃあ、何しとん」

牡蠣食う研

「うっうっうっ…。プロの手技の素晴らしさ痛感しております」

垰様

「はあ、もう牡蠣食べんさい。いっぱい焼いとるけえ」

最後は牡蠣を食べまくり!フライで…

焼き牡蠣で…

お土産もたくさんいただきました

個性のある生産者様4社を訪ね歩き、最後はお腹いっぱい牡蠣を試食し、お土産まで持たせていただいて、参加者全員大満足の一日となりました。食後は、それぞれが気になる生産者さんの牡蠣や加工品を購入してフィニッシュ。実際に商品の購入や今後の打ち合わせに進んだ方もあったようです。

生産者様と飲食店様
心の距離が近づいた!?

楽しい牡蠣打ち体験&試食も終わり、いよいよ「カキワゴン!」ツアーもしめくくり。最後に、ご参加いただいた皆様より一言ずつコメントを頂戴いたしました。

宮下様

「初めて加工場の中を見ることができて、流れが知れて参考になりました。生産者さん個々で特徴あるなぁ~と。4軒回れたので、後に行けば行くほど知識が深まって面白かったです。うちは牡蠣料理のメインはカキフライなんで、カキフライに合う牡蠣を探していきたいですね」

井辻様

「『龍』は餃子専門店ですが、牡蠣料理のバラエティは今後も増やしていきたいです。インバウンドも戻ってきますし、広島の牡蠣をもっと知ってもらいたいですね」

羽生様

「牡蠣は手作業が多く、とても手間ひまのかかった商品なんだということを認識できました。観光のかたはもちろん、広島県人にも、生産者の皆さんの思いを伝えていけるよう、私たち飲食店が架け橋になっていきたいと思います」

マサキ様

「いやー美味しかったです!地場の産業をカジュアルに見られてためになりました」

岡田様

「広島に牡蠣LOVERをもっと増やしたいなと改めて思いました! 広島にも、もっとキャッチーな牡蠣料理の店があっていいですよね。牡蠣は県外の人が『あ~、また広島行こ!』ってなる食材のひとつですから」

植村様

「今回参加して、実際に牡蠣養殖の現場を取材させていただき、養殖の仕組みをより深く学ぶことができました。牡蠣パイプの流出を止めるために、生産者の皆さんがしっかり対策をしたり、いろいろと考えられていることが知れてよかったです。今日の経験を、2月の卒業制作展に活かしたいと思います」

今回のツアーをもとに植村様が完成させた作品『カキイカダスト』は、「第26回広島市立大学芸術学部卒業・修了作品展」にてご覧いただけます。約400本の牡蠣パイプ廃材から生まれた芸術作品、ぜひご覧ください!全長2mあるそうです…巨大!

information
第26回広島市立大学芸術学部卒業・修了作品展
2023年2月10日(金)~2月14日(火)10:00~17:00
広島市立大学 芸術学部棟
公式Twitter

知ってるつもりでいるけれど、意外と知らない牡蠣のこと。今回含め県内三カ所の牡蠣生産者の皆様を訪問することで、我々牡蠣食う研も、ココロの牡蠣愛がぐっと増したのを感じております。このツアーがきっかけで、参加者のお一人・マサキマサユキ様の無人販売所『きみと冷食がたべたい』にて世良水産様の牡蠣加工品が販売スタートするなど、新たな動きもあるようでございます。

カキワゴンにご協力いただいた生産者の皆様、改めてありがとうございました!

撮影:中野一行

※本記事では出演者の健康確認をした上で、撮影のため一時的にマスクを外しています。

今回の牡蠣食う研究

美味しく食べる。それだけじゃ嫌ッ…!牡蠣の魅力を五感で感じる新商品を作りたい

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担当研究メンバー

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