REPORTvol.3

新説! 牡蠣的(かっきてき)冷凍技術で夏も牡蠣は旨い、の巻

新説! 牡蠣的(かっきてき)冷凍技術で夏も牡蠣は旨い、の巻

オンシーズンにできた牡蠣を一番いい状態で凍結させれば、オフシーズンでも品質を保持したまま食べられる。つまり夏場は、鮮度そのままの牡蠣を食べている可能性が高いんです。 (大学教授・羽倉義雄)

広島を訪れた観光客の皆様に、美味しい牡蠣を一年中食べていただくための諸活動を展開中の牡蠣食う研。近年目覚ましく向上している冷凍技術に着目し、「一年で一番美味しい時期の牡蠣を最新技術で冷凍加工すれば、365日最高に美味しい牡蠣が提供できるのでは!?」と思い立ちました。さっそく冷凍技術に詳しい大学教授の元を訪れて…。

(取材・文/牡蠣食う研 大須賀あい)

博士を訪ねて三千里
本日は広島大学へ…

牡蠣食う研でございます。夏至を過ぎ梅雨明けも近づく今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。本日私は、東広島市にキャンパスを置く広島大学へとやってまいりました。というのも、とある方に突然呼び出され…。

ウェルカム!牡蠣食う研さ~ん!

牡蠣食う研

「大須賀研究員!お久しぶりでございます!」

本日牡蠣食う研を呼び出したのは、広島でライターとして活躍する大須賀あい研究員。牡蠣食う研の立ち上げ以来、取材や研究活動を支えるメンバーでございます。

大須賀研究員

「実は今日は、食品加工の専門家に話を聞くべく広島大学へ来たんです。というのも、オフシーズンの夏に食べる牡蠣は、基本冷凍でしょ?でも牡蠣に限らず冷凍された食品って、なんかマイナスなイメージがあるじゃない。実はそれって、私たちの無意識な思い込みなんじゃないかと思っていて…」

牡蠣食う研

「牡蠣食う研は、おいしい牡蠣を1年中食べていただく活動をしておりますから、その裏取りは大変重要でございます。大須賀研究員、お供しますぞ!」

「やぁ。皆さん、お久しぶり」

牡蠣食う研

「羽倉教授!お、お、お、お久しぶりでございます!以前お会いしたのは、確か2020年。春牡蠣研究のスタートでは春の牡蠣に関する研究結果を示していただき…。あれから我々も春の牡蠣の美味しさについて研究を深めまして、広島県では春牡蠣という言葉が徐々に定着しつつあります。その節は大変お世話になりました」

大須賀研究員

「羽倉教授は、食品の加工や保存を研究する食品工学の専門家!特に水産物の加工に関しては右に出るものがいないといわれる日本屈指の研究者なの。ね?羽倉教授?」

羽倉教授

「え、えぇ。褒め殺しにあっていますが、はい。そうですね…。私は、食品工学に携わって30数年です。研究対象は、野菜、お肉、お魚、そして牡蠣などの貝類など食品全般です。卒業した東京水産大学大学院(現在の東京海洋大学)での博士論文のテーマは『食品の凍結粉砕分画に関する研究』でしたから、低温下の水産物や食品全般に関することはどうぞお任せください」

大須賀研究員

「羽倉教授は水産学博士。ほらっ。とんでもなくすごい人!羽倉先生、今日は私を学生だと思って、冷凍についての講義をお願いします!」

冷凍のエキスパートが語る
凍結技術の歴史

こうして広島大学大学院生産生物学部食品工学研究室でのプライベート講義が始まったのでございます。

冷凍牡蠣は良いのかい?悪いのかい?どっちなんだいっ?

大須賀研究員

「あのぉ…、先生は冷凍がご専門なので大変申し上げづらいのですが…、まず一般的に、冷凍食品はおいしくないというイメージがあって…」

羽倉教授

「そうですか?そう思いますか?本当ですか? 年齢の高い人はそう思っているかもしれませんが、そんなことはないと思いますよ。今、特に若い人は冷凍食品をよく利用しますし、コンビニにもたくさん冷凍食品が並んでいます。お家で食べるのにも、とても便利じゃないですか」

大須賀研究員

「いや、わかります。わかるんですけど、例えばスーパーのお魚売り場に行った時に、パックに入っているお魚に『解凍』と書いてあると、解凍されているってことは鮮度が悪いんじゃないかと…」

羽倉教授

「それは誤解です。スーパーなどに並ぶ冷凍された魚は、捕まえたらすぐ急速凍結して凍らせているので鮮度のいいまま凍っています。それをきちんと解凍すれば、十分に安全で美味しいのです。例えば鯖でいうと、冷凍した鯖の方がよっぽど安全です。最近アニサキスの話題がよくニュースに上がりますよね。アニサキスはマイナス20度以下で 24時間以上冷凍したら完全に死にます」

確かに…!!!

牡蠣食う研

「『冷凍食品は美味しくない』という固定概念は、私たちが勝手に作りあげた幻想である可能性もございますよね?」

羽倉教授

「そうです。確かに昔の冷凍品は、あまり質が良くなかったと言われています」

「でもそれ、大昔の話。昭和30年代ですよ」

嘘でしょ…!!!

大須賀研究員

「ということは、今の冷凍技術はもう完全に進化しているってことですか?最近よく聞く急速冷凍技術はいつ頃から…」

羽倉教授

「今?今ですか?いつの話ですか?食品を素早く凍結することを指す急速凍結に関していえば、私が大学に入学した1980年代前半の食品冷凍工学の講義で、『急速凍結』っていう言葉が教科書に載っていました。今更、全く珍しくありません」

羽倉教授によると、食品を冷凍(凍結)する方法は大きく分けて緩慢凍結と急速凍結の2つ。緩慢凍結とは、食材の中心部が凍るまでに時間を要する冷凍方法。ゆっくりと水が氷になるため氷の結晶が粗大化し、細胞まで破ってしまうそうなのでございます。その結果、解凍するとドリップが出やすいのだとか。

一方、急速凍結であれば氷の結晶が大きくなる前に冷凍できるので、風味を損なわずに高い品質を保ち、解凍後のドリップを極めて少ない状態にできるのだそうです。

要は中心温度
奥深き急速凍結の世界

急速凍結の技術は、とうの昔から当たり前のように素晴らしい冷凍技術として存在しているという衝撃の事実を知った大須賀研究員。次は、さらに奥深い急速凍結の世界へと踏み込んでいくのでございます。

大須賀研究員

「物理などの理科系が苦手な私ですが、凍結が理解できました。ちなみに、具体的にどう凍結すれば急速凍結と言えるんですか?」

羽倉教授

「急速凍結とは、食品の中心点の温度をマイナス1度からマイナス5度まで低下させるためにかかる時間が30分以内である場合を指します」

大須賀研究員

「な、なるほど…。マイナス〇度以下の冷凍庫に入れておくだけが急速凍結ではないと…!」

急速凍結において重要なのは中心温度…!

羽倉教授

「例えば家庭で炊いたご飯を冷凍する際、なるべくご飯を薄く平たくして冷凍するじゃないですか。これは、表面から中心までの距離を短くし、中心部をいかに早く冷却するかを重視しているからなんです」

大須賀研究員

「よく料理のレシピ本に、ご飯もお肉も平たくして冷凍せよと書いてあるのはそういう意味だったんですね!! ちなみに、急速凍結の種類はどれくらいあるのでしょうか?」

羽倉教授

「大まかにいうと、一般的な急速凍結の種類には次の3つが挙げられます。まずは、冷風を用いるエアブラスト。そして、塩水やアルコールなどの液体に食品を漬け込むブライン。3つ目は、金属の板で食品を冷やすコンタクトフリーザーです」

大須賀研究員

「なるほど。どの急速凍結法がベストなのでしょう?」

羽倉教授

「どれがいいとは一概に言えません。牡蠣の場合、各業者さんが持つ装置や道具で、いかに急速凍結を実現できるかの工夫が大切だと思います」

冷凍した牡蠣は
最高に旨い!?説

さて、本日の本題は牡蠣でございます。

冷凍した牡蠣は、味も品質も問題ないという明確な答えは羽倉教授から出るのか、出ないのか。その真髄へ、ずずずいーっと触れてまいりましょう。

大須賀研究員

「では今日一番聞きたかったことを伺います。冷凍した牡蠣は、味も品質も問題ないのでしょうか?それを夏場に食べても問題ないと?」

「Whyなぜに?どこに問題があるのですか?」

羽倉教授

「オンシーズンに美味しくできた牡蠣を凍結して、一番いい状態のものをオフシーズンに食べる…。非常にいいことだと思いますよ」

牡蠣食う研

「昨今の牡蠣の生育状況は、海水温の上昇などの理由から年々遅くなってまして、10月の水揚げ時には、まだ身入りが小さいなどという声を伺うこともございます。しっかりと身入りした春の牡蠣を冷凍加工すれば…考えようによっては本当に美味しい時期の牡蠣を食べられるのは、冷凍牡蠣を食べられるオフシーズンという可能性もございますか?」

羽倉教授

「私はそう思いますね……例えば冷凍のカキフライです。牡蠣業者さんが暇になってから、つまりお正月を過ぎて売れなくなってくる時期から加工が始まることがほとんどですよね。一番状態の良い時に急速凍結して、それをカキフライ用の牡蠣として加工し出荷しているわけです。店舗では揚げるだけ。だから、夏場にカキフライを食べている人は、一年で一番美味しい牡蠣を食べている可能性もあるわけです」

つまり、冷凍した牡蠣は最高に美味という可能性大。

大須賀研究員

「謎は全て解けた! 冷凍=悪者の概念がふっ飛びました!これで、広島では一年中美味しい牡蠣が食べられると堂々と胸を張って言えますね」

牡蠣食う研

「美味しい時期に収穫した牡蠣を、正しい冷凍方法で急速凍結した商品ならば、そういうことになりますね! 実は、我々牡蠣食う研が2019年に行った調査では、県外からの観光客62.3%が『広島で牡蠣を食べることを楽しみにしている』と回答しているのでございます。広島に最も観光客が集まるのは、やはり8月。来広する観光客の皆さまに夏でも安心して、冷凍牡蠣を召し上がっていただきたいですね…!」

大須賀研究員

「栄養面ではいかがかしら?牡蠣ってスタミナ食材のイメージがあるじゃない?」

牡蠣食う研

「驚くなかれ、牡蠣は大変な夏のスタミナ食材ということが判明しております。例えば、夏の定番食材である鰻の白焼きと生牡蠣の栄養素を比較すると、鉄分は約2倍、ビタミンB12は約10倍、亜鉛は約7倍。しかもカロリーは1/5! さらに栄養剤で有名なタウリンの含有量は、数ある食材の中でも断トツに多いそうでございますよ!」

大須賀研究員

「夏バテや疲労回復にも牡蠣はぴったりってことね!」

夏に食べる牡蠣は広島の新常識に!?

大須賀研究員

「羽倉教授、この度もありがとうございました! いや~大変勉強になりました。私の凍結理解がアップデートされましたね。もう、この夏は広島で牡蠣を盛り上げるしかない! 牡蠣食う研さん、何かやりましょう!」

牡蠣食う研

「ふっふっふ。実は…」

「何ですって!?」

冷凍した牡蠣は、衛生状態よく急速凍結すれば、品質そのまま保存可能なことが分かった本日の研究。1年中美味しい牡蠣を提供すべく邁進する牡蠣食う研の次なる一歩は?! 次回にこうご期待!に

撮影:中野一行

今回の牡蠣食う研究

Rのつく月だけじゃない。1年中美味しく安心して食べられる牡蠣を町に実装したい!

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