おはようございます。爽やかな小鳥の鳴き声とともに、朝の広島市中区「駅前通り」を闊歩しております、牡蠣食う研です。時刻は午前10時。いったいなぜ、私がここを歩いているかと申し上げますと。ある男性から熱い呼び出しメールを頂戴したのでございます。
「出来ました!僕の『白いカキフライ』が!!!!」
ビックリマークが4個付いておりました。熱い!
白いカキフライが出来た。白いカキフライが出来た。白いカキフライが…出来た…。脳内をめぐる嬉しすぎるワード。
このたびは幣もとりあへず手向山
白いカキフライ神のまにまに
広島県民にだけ異様に知られている百人一首を心の中でアレンジしつつ、スキップで向かいました。メールの主・安原英志研究員が待つイタリアンバル『LUCIO(ルチオ)』(広島・西平塚町)に…。
取材を担当するのは、広島県営SNS『日刊わしら』編集長で、創刊42年の老舗タウン情報誌TJ Hiroshimaの編集もしている山根尚子研究員(牡蠣食う研のSNS更新を担当)。
「白いカキフライが完成した…ですって!?それはもう試食するしかありませんよ!マイ箸マイバッグ持参で駆けつけますんで、絶対に私に取材させてくださいね!絶・対・に!」
…と、白いカキフライ食べたさにものすごい勢いで圧を掛けてきたため、2名でお店にお邪魔することになりました。
「キキィ~(←ドアをそっと開ける音)。営業前のお時間に失礼いたします。牡蠣食う研でございます」
「いらっしゃいませ!わざわざありがとうございます!」
改めてご紹介しますが、こちらのイケメンは『LUCIO』のオーナーシェフ、安原英志研究員。牡蠣生産者直営の牡蠣料理専門店で延べ7年にわたり研鑽を積んだ、筋金入りの牡蠣好き料理人でございます。広島で「白いカキフライ」を提供する1号店となるべく、日夜試作に励んでおられます。
「白いカキフライが…かかか完成した、とメールにありましたが…?」
「はい!オペレーション的なものも含め、もっともっと工夫をしなければいけませんが、ひとまずお客さまに食べていただけるものは作れていると思います」
「それは今日…食べさせていただくことが…できるのでしょうか…ゴクリ(←生唾を飲む音)」
「もちろんです!僕が目指しているのは『白いカキフライ』ではなく、『感動してもらえるくらい美味しいカキフライ』。このカキフライに感動があるかどうか、ぜひ食べて確かめていただきたい!」
案ずるより産むがやすし。百聞は一見にしかず。考えるな、感じろ。何はともあれ、食べてみるしかございません。さっそく、揚げたてほやほやの白いカキフライ安原研究員バージョンを試食させていただく運びとなりました。
ザッパーーーーーーーーーーーーー!
さあさあ、いよいよ、実食でございます!
(余熱で火を通してから)
驚異!何も付けずに食べても
「瀬戸内海の味」がする…!
「わわわわ、まずファーストインプレッションでおいしそう。不思議ですね、衣は白いのに、揚げ上がりのサクサク感が見た目に感じられる…。では、さっそく、心していただきます!」
箸でそっと持ち上げて…
もぐもぐもぐ…
お…おいしいーーーーーーーー!
「山根研究員、あなたタウン誌編集者でしょう。もっと具体的に感想を述べては…」
「(急に早口で)いや~、これはおいしいですね。何がおいしいって牡蠣がおいしい。低温揚げによって、牡蠣本来の旨味が、生のいいところを活かしながら最大限引き出されているという印象です。小龍包みたいにジューシーで、衣を噛み割ったら牡蠣のエキスが口の中に一気に流れ込んで来ます!」
「牡蠣にしっかりと残った汁気に、瀬戸内海の塩の味が乗っていて、何も付けずに食べても本当においしい。おいしい~~~~~~~~~~~~~~~~!」
「ありがとうございます!牡蠣食う研の皆さんが、『LUCIOの安原に期待してみよう』と言ってくださったおかげでここまで頑張れました!!」
「ちなみにこれ、下味なしですよね?何というか、使ってる牡蠣のポテンシャルがむちゃくちゃ高いという気がするのですが、どちらの牡蠣でしょうか?」
「僕がずっと使っている、廿日市市大野町の牡蠣生産者『オオノ』の殻つき牡蠣Lです。今日は朝からの試作だったので昨日買ったものですが、普段は午前中に仕入れに行って、その日に水槽から取り出したものを、揚げる直前に殻から剥いて使っています」
「フライにした時に美しくなるように、いかに手早く開けて手早く調理するか。剥き方で味もかなり変わります」
「だからこんなにジューシーなんでしょうか。大きくって、かつ味が濃いなぁっていう印象です。口の中がとっても贅沢な気分になります」
「僕、牡蠣の取り扱いに関してはポリシーがあるというか、他の皆さんに比べて特化している部分があると思うんですよ。だから特別おいしいカキフライを僕のやり方で目指すなら、そこらへんにはない本当にいい牡蠣を使いたいんです。この牡蠣も、1月に入るともっともっと身入りが良くなってきます」
「え!既にこんなにぷりぷりしてるのに!?安原さん的に一番美味しい季節はいつ頃なんですか?」
「僕は2~3月ですね。牡蠣は0℃に近い、冷たいところにいるほど旨味が出るんですが、海水温は気温の一カ月遅れとされています。なので、海水温が2月の気温になる3月が特においしいと思います。産卵のギリギリ前が、本当に一番おいしい牡蠣のタイミングです」
ここで思い出していただきたいのが、前回記事「宮島勉強会レポート」で発表させていただいた、「白いカキフライ」最大の必須条件でございます。
生でも食べられる広島県産のおいしい牡蠣を使う
この点において、安原研究員ほどの適任はいないと言えるでしょう。専門料理店で長年牡蠣を扱ってきた安原研究員だからできる、食材のセレクトと取り扱い。生産者レベルの牡蠣への造詣と、イタリアンの手技が重なった時に起きるケミストリーこそが、安原流白いカキフライの最大の調味料…と言えるのかもしれません。
やっぱり大変だったのは
剣立ちさせるための手技
「安原研究員、みごとインストールおめでとうございます。実際、ここまで試作を重ねて来られて、一番の難関というと、どのあたりだったと思われますか?」
「やはり衣を付ける工程ですね。パン粉を剣立ちさせるための手具合、所作は本当に試行錯誤しました」
「『斜めに付ける』というのが特にポイントで。上から押しているようでいて押していない。ただ、今使っている牡蠣がちょっと僕の手よりも大きいんですよね。それで一度に衣を均等につけるのがすごく難しいんです。指先を牡蠣の黒いひだのところに当てるイメージで牡蠣に触れると、手首のところから牡蠣のお尻が出ちゃう。かといって牡蠣を逆向きに持つと、ひだの方に綺麗につかなくて…。でも牡蠣そのものの良さにはこだわりたいので、衣の付き具合を優先して牡蠣を小さくするということは考えていないんです。これはもう、時間が許す限り練習するしかないと思っています」
「練習ということは、今でもまだご自身の中で100%ではない、と…?」
「僕の中では7割くらいでしょうか。もちろん、皆さまに正式にご提供するまでには自分の中で100%の仕上がりに到達させるつもりです」
「これで7割ですか…!すでに相当おいしいですけど」
「まだまだです。これまでの試作や勉強会で目指すべき点が見えたので、その点に向けたルートをどう自分なりに作っていくか。そこに向けて揚げ続けるしかないと思っています」
神は細部に宿る。
素材の管理もより丁寧に
「油やパン粉など、牡蠣以外の食材の取り扱いに関してはいかがですか?なにか工夫している点がおありでしょうか」
「まずパン粉は、牡蠣食う研の皆さんに教えていただいた、剣立ちがよく、牡蠣の味を邪魔しない、糖度の低い特別なパン粉を使用しています。このパン粉、MとLの2サイズあるんですが、フライにした時に剣立ちの立体感がよりしっかりと出るよう、Lを使っています。また、パン粉が乾燥してしまうと味にすごく影響が出るので、使っているうちに乾かないよう、こまめに袋に戻したりラップを掛けたり、1日使ったら真空機を使って真空パックしたり、保管には気を遣っています」
「はい。ラードを、初期の試作よりもかなりたっぷりと使っています」
「油の量を増やしたことで温度の上下もしにくくなりましたし、揚げはじめに牡蠣が鍋底に付きそうになることもなくなりました。あと、揚げている間に箸やゴムべらで油をかき回し、鍋の中で油を循環させることにしました。せっかくたくさん使うんだから、新鮮な油をできるだけ牡蠣に当ててやるほうがいいなと思って」
「なるほどなるほど…!つまりそれは、安原研究員が独自に編み出した秘技ということになりましょうか?」
「あ、失礼いたしました。僭越ながら私が今、このように命名させていただきました。これぞまさに、千利休が言うところの守破離の破。これまで学んだことを参考に、ご自身に合った調理法を模索していらっしゃることを垣間見ることができました…!(頬を伝う涙)」
一見ちょっとしたことに思えるひと手間が、仕上がりの成否を決める。安原研究員が語る研究成果のすべてにそれを強く感じました。
…とか話しているうちに、山根研究員、あっという間に3個を完食。調子に乗ってレモンサワーもオーダー
「うん。やっぱりカキフライとレサワの相性は抜群ですね!マリアージュしすぎていて思わず小鼻に油が浮いちゃいました!心なしかお肌ツヤツヤ!」
「牡蠣のグリコーゲンとレモンのビタミンCで、山根研究員がお店に入る前よりお綺麗になったような気がします。目の錯覚でしょうか…(ゴシゴシと目をこする)」
これがゴールではない…
探求の道はまだまだ続く
…と、実においしく仕上がった安原研究員流の白いカキフライを試食させていただいた我々牡蠣食う研。最後は、年明けの提供に向けて改善していきたいこと、研究の余地があることなどを話し合いました。
「山根さん、食べてみてどうでしたか?こうした方がいいとか、ここは変えたほうがいいとか、もしあったら教えてください、どんなことでも大丈夫です」
「そうですね…3個一気にぺろりと平らげておきながらとっても図々しいんですけど、一つ気になったことがありました。それは、衣の油切れです。普通のフライってこんなものかもしれないんですが、3個食べると、ちょっと油が残っているなと感じてしまいました。重いというか。先日食べた三谷さんのフライは、同じパン粉を使っていたけど、もっと、まるでパンを食べているみたいに衣がサクサクっとしていたんですよね」
「衣ですか…。いま試作を重ねている中で一番苦労しているのはやっぱり衣の付け方ではあるので、そこはまだまだ練習する必要があると思います。もっと綺麗に剣立ちさせれば、油の抜けはさらに良くなる筈です」
「すみません、3個一気にぺろりと平らげておきながら注文まで付けて」
「本当ですよ!私の分を残そうという配慮も全くなく3個一気にぺろりと平らげておきながら(怒)」
「いえ、意見をいただけるのは全然いいんです。食べる方においしいと言っていただけることが一番大切なので。もうここからは経験値だと思います。とにかく数を揚げて、皆さんに食べていただく。それを踏まえて、皆さんのリアクションを見ながら微調整を加えていきたいと思っています」
「今日は本当にありがとうございました。最後に一つ聞かせてください。安原さんって、なんでこんなに頑張れるんですか? このカキフライ、作るのも大変だし、原価率も高そうだし、けっしてお金儲けにはならないと思うのですが…」
「牡蠣食う研の皆さんの情熱に感化されたからです。このカキフライをもっと広めていきたいんだという思いに答えたいなというのが一番大きくて。広島の牡蠣が好きで、こんな風に思ってくれる人たちがいて、街には消費者の人たちがいて。皆さんの情熱を一人一人の消費者に伝えるのって、僕ら料理人しかいないと思うんです」
「安原研究員―――――――――――!(滝のような涙)」
「結局のところ、僕って期待されると頑張っちゃうんです。…ドMなんで!去年まではお互い知りもしなかった皆さんと今日こうしてカキフライを試作している。縁って不思議ですよね。東日本大震災の当時、僕はまだ牡蠣業者直営のレストランに勤めていて、宮城の皆さんに種牡蠣を送ったんです。これはその時からずっと思っていることなんですけど…牡蠣って、人を繋ぐんですよね」
牡蠣は、人を繋ぐ。
長年牡蠣生産の現場を間近に見つづけ、牡蠣を調理しつづけて来た安原研究員ならではの金言が出たところで、取材は終了。皆様がこの記事をご覧いただいている頃には更なるクオリティで完成しているであろう、安原研究員流の白いカキフライを楽しみに待つことにして店を後にしました。
白いカキフライの更なる進化を
見届けるのは皆さまご自身です!
取材から数週間後。安原研究員から届いた年賀状には、こんな報告が…。
カッキーニューイヤー。牡蠣食う研の皆さま、いかがお過ごしでしょうか。僕の白いカキフライは、あのあとさらに進化を遂げました。上手にできたので年賀状にしてみました。本年もよろしくお願いいたします。安原英志・拝
練習、検証、工夫、そしてまた練習。安原研究員の飽くなき探求心と情熱が、白いカキフライを日進月歩で進化させているようです。その進化の証人となるのは、貴方です。
提供開始は2020年1月15日。
白いカキフライを食べに、広島へお越しくださいませ。
安原英志研究員の
白いカキフライが食べたい人は…
店名LUCIO(ルチオ)
- 電話
- 082-546-9775
- 場所
-
中区西平塚町8-5 Google MAP
- 営業
-
- 11:30~14:00(OS13:30)
- 18:00~23:00(OS22:00)
- ドリンクOS22:30
(1/19までは18:00~25:00)
- 定休
- 不定休
- 駐車場
- なし
撮影:富本淳司、戸屋亮二(ニッショウプロ)